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東京高等裁判所 昭和60年(う)222号 判決 1985年10月14日

本籍

東京都杉並区阿佐谷北一丁目九二二番地

住居

同都東村山市萩山町三丁目一二番二〇号

不動産業

櫻井恒雄

昭和七年三月二〇日生

右の者に対する有印私文書偽造、公正証書原本不実記載、同行使、所得税法違反被告事件について、昭和五九年一二月二一日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官土屋眞一出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人小川英長名義の控訴趣意書及び同訂正補足申立書に、これに対する答弁は検察官土屋眞一名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに原判決の量刑は懲役刑の執行を猶予しなかった点で重過ぎて不当である、というのである。

しかし、原審及び当審における証拠調の結果を総合して認められる情状は、原判決の「量刑の理由」欄記載のとおりであり、特に、本件各所得税法違反事件のほ脱税額は合計三億円を超える多額であり、ほ脱率もそれぞれ一〇〇パーセント及び九七パーセントという高率であり、しかもその手段として、本件と全くかかわりのない第三者を借主とする七億五千万円の金銭消費貸借契約証書を偽造したうえ簡易裁判所を欺いて内容虚偽の即決和解を成立させるなどし、またほ脱後も、その収入金の使途からほ脱の事実が露見することを防ぐため、共犯者津島テル子らが共犯者三浦正久から合計三億円を借用した旨の内容虚偽の金銭消費貸借契約に基づく抵当権設定登記等の申請を司法書士に依頼し、その申請により情を知らない登記官をして不動産登記簿にその旨の不実の記載をさせ、これを備え付けさせるなどしたというものであって、その規模の大きさ、手口の巧妙さ、徹底さ等の点で、その違法性は極めて大きく、さらに、被告人はそのすべてに重要な役割りを果していたという点で、その刑責は相当に重いといわなければならない。したがって、他面において、本件各罪における被告人の果した役割の態様・程度が、共犯者三浦正久と対比すれば、従属的な一面を有すること、本件のうち津島己喜蔵の所得税をほ脱した罪については、共犯者津島テル子の依頼が被告人の動機を形成した一面もあること、被告人は、本件各罪による刑事罰以外にも、二億円を超える国税・地方税を納付しなければならないこと、その他所論指摘の諸事情を考慮しても、到底刑の執行を猶予すべきものとは認められず、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

(なお、原判決二丁四行目に「八〇六、七六二、五〇〇円」とあるのは、「八〇五、七六二、五〇〇円」の誤記と認める。)

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 森岡茂 裁判官 小田健司)

○ 控訴趣意書

被告人 桜井恒雄

昭和六〇年三月五日

右弁護人 小川英長

東京高等裁判所 第一刑事部 御中

右の者に対する有印私文書偽造等被告事件の控訴趣意書を左のとおり述べる。

第一、本件事実関係については、被告人が認めているとおりである。ところで、一審判決は被告人を懲役一年八月及び罰金三五〇〇万円、未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する量刑をしている。

右量刑の理由は、不動産業を営んでいた被告人が、被告人を頼りにしていたテル子から己喜蔵及び長兄津島藤治郎の入院費用並びにテル子らの生活費を安定して得ることができるための共同住宅の建築資金などを捻出するため、本件不動産の売却方を依頼された被告人がテル子の無知無思慮につけ込み、被告人自ら中間取得者となって二億六千六百万円余の法外な転売利益を得たうえ、右不動産取引によって取得した自己及び己喜蔵の各所得について脱税を企て判示各犯行に及んだと認定している。

テル子は本件土地売買に先立って、昭和五五年には、中野区丸山二丁目一九九五八番地七己喜蔵所有名義の土地二〇〇坪を坪五五万円代金総額一億八千万円で千代田建設に売却し、同五六年には、同区丸山二丁目一九九〇番一所在の土地七七坪を坪一五〇万円代金一億一千五百五〇万円で京王不動産に売却している。

これらの売却はいずれもテル子は次兄房次郎に相談もせず、勝手に処分していたため、兄妹間で不和を生じていた。

テル子としては、本件不動産売却当時姉小林みよ子も父己喜蔵名義の土地上にアパートを建てていたし、病気の父己喜蔵の世話や兄藤次郎の面倒をみていかなければならない立場にたたされ、他方テル子自身、自分の老後の生活設計のため、老朽化したアパートの建て直しをしなければならない時期を迎えていた(以上昭和五九・七・七付同七・一四付津島テル子検面調書)。当時房次郎は、津島姉妹が管理している己喜蔵の実印を改印して自分が土地を管理しようと区役所に印鑑登録の変更をしていた状況にあった(昭和五九・七・一四金内秀夫検面調書二項)。そこで、本件売買は、次兄房次郎に先立って、内密に売却し、換金することを要した。被告人は、テル子からの依頼で、本件土地を坪一二〇万円の通常価格で売り出したが、いわゆる相続争いのある事件がらみの土地ということで売却することができなかった。テル子としては、本件土地の売却処分を急いでいたところから、価額の点でも通常価額から半値に減該しなければ売却できない旨充分承知させており、被告人自身も後日問題を避けるためテル子から念書もとり慎重に行動しておりこのような無知・無思慮ではない(昭和五九年七月一四日付津島テル子検面調書第八項)従って被告人がこれにつけ込んだというのは誤った見方である。

第二、次に原判決は、被告人が自ら本件土地の中間所得者となったという点を非難しているようである。

しかし、本件では次兄房次郎が夜テル子方に押しかけテル子に会わせろとけんか騒ぎを起していたし、テル子が土地を急いで換金したいと焦っていたが己喜蔵名義のまゝ被告人が売却に出したところ、買主が売主のところへ売却を確認に行きたいと要望されるため、土地の登記簿上の所有名義を一旦金内秀夫名義にしないと売却出来なかったからである。

これを被告人名義にしなかったのは、被告人自身津島家の紛争に巻き込まれたくなかったからである。

この他被告人はテル子から本件不動産売却等の委任状をもらっていたので代理人が所有者になってしまうことはできなかったものである。

このように、被告人が名義上中間取得者になれなかったのは、本件土地の売買の性格が、法律上の紛争が生ずる可能性も含んでいたため、己喜蔵名義で処分することが難しかったこと、津島テル子側の利便をはかるためである。

又、被告人は当初から、本件取引の実質的所得者としての地位を望んでいたものではない。

従って、この点に関する原判決の非難は当らない。

第三、原判決は、被告人が本件取引によって二億六六〇〇万円余の法外な転売利益を得たと非難する。

本件では、土地換金のため土地所有名義を己喜蔵から金内秀夫名義に移転し同人を経由して富士建設(株)、丸藤商事(株)等の買主に譲渡する形式をとらねばならなかったのは前記のとおりである。

これに伴って金内秀夫について生じる不動産取得税、登録料、短期譲渡所得に伴う公租公課についての支払財源を確保する必要があり、他方、万一本件売買について、次兄房次郎からテル子や買主に対し土地売買契約無効確認請求訴訟や、あるいはこれらを原因として土地所有権移転登記請求訴訟の提起があったときは、これに伴う一切の諸費用は被告人側において負担するという話合いが被告人とテル子との間で交わされて居り、これらの費用を被告人において確保する必要から被告人はテル子の了承を得て確保したものである。

この他、本件被告人の取得するに至った金額の決定に当っては、テル子自身も述べている様に、本件取引に至るまで被告人は津島家のために献身的に世話をやき長兄藤治郎を栃木県佐野市所在の両毛病院に入院させたり、アパート建築の相談、アパート入居者の世話、貸ガレーヂ建築の相談、ガレーヂ利用者の斡旋等をしていたことに対する謝礼の意味もこめられているのである。

第四、原判決は、法外な転売利益を得たうえで右不動産取引によって取得した自己及び己喜蔵の各所得について脱税を企てたと認定している。

被告人が自己及び己喜蔵の税金の脱税を企てたことは確かである。けれどもそれを企てるに至った経緯は、テル子からの強い要請によるものである。

すなわち、テル子は己喜蔵、藤治郎及び自分自身の生活のために税金を控除後三億円の金員の確保を強く望んで居り、再三にわたって被告人に対し、税金の負担軽減に付いて対策をめぐらせる様に督促があったからである。

己喜蔵らの今回の土地建物譲渡所得にもとづく課税を検討してみると、土地売却総代金五三九、二八七、四〇〇円に対する正規の譲渡所得税は一五四、三三六、五〇〇円でありこれに地方税約七七、〇〇〇、〇〇〇円合計二三一、三三六、五〇〇円であるから税金を支払ってもなお約三億円程度は確保できたのである。

被告人にしても本件不動産取引によって課税対象となる所得は金一九〇、九一一、〇〇〇円で正規の所得税額は金一五一、八五四、五〇〇円であったがこれを法人組織にして法人税法にもとずく申告をすれば個人の事業所得よりもより税率の低い税額で(約半分程度)納税できたものであり、何らの問題のない事案であった。

しかし、被告人には、税務上の知識を欠いたため、本件のような全く無用の事案を起したものであり、その意味で本件は、被告人らの租税についての無知が招いた事案である。

勿論、今日の苛酷かつ異常ともいうべき累進税率が被告人らを租税回避行為に駆りたてたことも否めない。

原判決は、被告人が法外な転売利益を得たというが、本件では、実際の取引をする段階で、買主側が、余り安い値段では、不自然な仕入価格となり、税法上も問題が生じるということで、再度、買主の側からの要望もあり価額の上乗せをしたため、巨額な中間利益となったもので、当初から被告人が利益を目的として行動したものではない。

事の成り行き上、被告人が中間利益を得るに至ったという事情も存するのである。

第五、原判決は被告人は、自己及び己喜蔵の所得税を免れる目的で、三浦の発案に基きすでに死亡し、本件と全くかかわりのない第三者を借主、三浦を貸主、被告人及び己喜蔵らを連帯保証人とする金銭消費貸借契約証書を偽造したうえ、右三浦に対する己喜蔵の保証債務を履行するため、同人が本件不動産を直接富士建設株式会社及び丸藤商事株式会社に譲渡したことにして被告人には転売利益が生じなかったことにするとともに、借主たる第三者に対する己喜蔵の求償権を放棄したことにし、更には、右のような脱税工作が真実であるかのように仮装するため、簡易裁判所を利用して内容虚偽の即決和解を成立させるなどして前記所得税を免れ、更には、テル子らが本件不動産譲渡により取得した売買代金で建築した共同住宅の資金の出所を税務当局に調査されることによって、右脱税の事実が露見することを危惧し、テル子らが、三浦から右建築資金を借用したように仮装するため、虚偽の抵当権設定金員借用証書に基づく抵当権設定登記等の申請をしてその旨登記簿原本に不実の記載をさせ、これを備えつけさせたものであって、特に被告人らの企図した脱税の態様が右のとおり大胆かつ徹底したものであるのみならず、脱税額が被告人分が、一億四七〇〇万円余、己喜蔵分が一億五四〇〇万円余、合計三億円を越えるものであり、またほ脱率も被告人分が約九七パーセント、己喜蔵分が一〇〇パーセントという悪質極まりない大型脱税事犯であると認定している。

被告人は三浦正久の指導により、テル子らのために即決和解を成立させるなどして、同人らの所得税のほ脱を行なったことは事実である。又、テル子が建築した共同住宅の資金の出所を三浦から借用したように仮装したことも事実である。

しかしこれらは、テル子らが、本件不動産譲渡による売買代金で建築した共同住宅の資金の出所を税務当局に調査されることをおもんばかり、テル子が三浦から右建築資金を借用したように仮装するため工作したが、これは三浦の指導であり、被告人がテル子に指導したものではない。又、ほ脱についても被告人は税額の軽減を三浦に依頼したのに、三浦は、その趣旨を踏み越えて独断で申告してしまったものである。

第六、原判決は被告人は本件につき、テル子から税金を納めても手許に三億円くらいは残るようにして欲しいと再三懇請されたが正規の税金を納めたのでは、同女の希望どおりにならなかったために己喜蔵分の脱税を考えるようになり、これが主な契機となって本件犯行を実行するようになったかのような弁解をしているが、被告人が法外な転売利益を自分のものとしなければ、本件各犯行に及ばずともテル子に対し望みどおりの収入を取得させることができたのであると認定している。テル子は、従来父や兄・妹のアパート収入や駐車場収入、不動産譲渡所得について自分で青色申告をし納税していたもので、税金の知識は被告人を上まわっていた。従って、本件の譲渡所得の正規の税額を納税し残額が三億円残ることは知っていたが、房次郎に五千四〇〇万円(昭和五九・七・二九島津房次郎検供八項条付念書)と妹ユリ子に金六千万円を支払わなければならない約束をして居り三億円の中からこれを控除すると残額は一億九千万円しか残らなかったために、藤治郎、ユリ子、自分にそれぞれ一億ずつ配分することができなくなってしまった。

それで、テル子は被告人に対し税金の軽減を求め何とか手許に三億円残るようにという要望をしてきたのである。

原判決は被告人が法外な転売利益を得なければ本件は起こらなかったというが、本件で被告人は金内から七千万円を要求されていたこともあり、金内はこれを貰わなければ、自分の名義に変更することはできないといゝ、当時他に中間所得者を見付けることもできなかった事情も存し前記のように房次郎との問題を後日に抱えていたということもあったのである。

第七、原判決は被告人は捜査段階において、単に本件不動産取引を円滑に進めるという理由からだけでなく、自己の転売利益に対し課せられる税金対策からも知人をダミーとして介在させたものであり、また本件で取得した利益の多くを海外旅行等によって使い果たし納税資金に窮するようになったために自己の所得に対する脱税を考えるようになったと述べているものであって、被告人自身において自己の所得に対して当初から脱税の意図が存したことは明らかであると認定している。

被告人は最初からダミーを入れようという考えはなかった。現に被告人はユリ子、テル子、野口忠弁護士と共に本件取引の前に西東京不動産組合(杉並区西荻所在)へ本件物件を坪一〇〇万円で売却に行ったこともあったが、相続争いに巻き込まれる恐れがあるからということで売却できなかったこともあった位である。

従って当初から被告人が転売利益を得ようとして行動したという認定は誤っている。

第八、原判決は本件脱税工作において被告人が支出した金額に比し、テル子において出捐した金額がはるかに多く巨額に上まわること、被告人は、本件により得た利益を海外旅行等の遊興費や高級腕時計・自動車等の購入代金にあてるなど専ら自己のために費消していること等を総合すると、被告人は、自己の利欲をみたすために、テル子が世事に疎いうえ、自分を頼っていることにつけ入り、同女に対しては被告人が専ら自己のために助力してくれているものと信じ込ませながら、同女をも加担させて本件各犯行を遂行し莫大な利益を取得したものといわざるを得ないのであってこれはきびしく非難されてしかるべきであると認定している。

被告人は己喜蔵の本件税金対策について三浦に相談したところ、三浦が直接テル子と面談し、テル子に対する三浦の手数料を決めたものであって被告人はこれについて関与したことはない。テル子の三浦と決めた金額が被告人の支払う金額を上まわったからといって、これを被告人の所為とすることはいわれなきことである。

第九、原判決はことに被告人は主として自己の利欲をみたすために、本件当時被告人以外に相談する適当な者がなく、被告人を頼るほかなかったテル子の無知、無思慮につけ込み、手数料や法外な中間利益を取得したうえ、自己及び己喜蔵の所得税のほ脱を企図し、被告人らの意のままに従わざるを得なかったテル子にたいし更に莫大な脱税工作資金を出捐させるなどして本件各犯行を敢行したものであって、脱税については、そのほ脱額が巨額であるのみならずほ脱率も一〇〇パーセントあるいは一〇〇パーセントに近い悪質極まりない犯行であると認定している。原判決は頭から被告人を加害者、テル子を被害者と決めてかかっている。被告人がテル子の依頼によって、テル子のために、税金対策に行動しようとしたことを評価しようとしない。他人の依頼がなくて誰が他人のために行動しようとする者があるだろうか、本件ではテル子の強い要請があったため、被告人が本件のような行動に走ったのである。勿論、全部がテル子のためだけではない。又、法外な中間利益を得たと非難しているが、本件では己喜蔵から金内秀夫に対し、売買不動産の登記名義を移転する形式をとったため、これに伴う公租公課等各種負担が発生した他、売買物件そのものが、いわゆる事件ものであり、後日の紛争に備えて危険負担分として中間利益を確保する必要があったためであり、全く理由なしに利益を確保したものではない。

更にほ脱率も一〇〇パーセントあるいは一〇〇パーセントに近い悪質極まりないものであるというが、これは、被告人らがこのようなことまで、三浦に依頼したものではなく、むしろ、三浦が独断で敢行してしまった結果である。被告人らは、三浦に対し税金の軽減を依頼したことはあったが、全く納めないように依頼した事実はない。判決は、被告人は右のように脱税を企図して、本件各犯行に及んでいることが明らかであるのに、査察を受けた以後においても関係者の取調べ等が進んで被告人の弁解が通用しなくなるまで犯行を認めなかったばかりでなく、三浦らと相謀り、捜査当局から追求をかわすための工作に狂奔し、罪証隠滅を図っていたものであると認定している。

本件では、被告人は三浦正久に税金対策を依頼してきた関係で、税務当局の調査があったことに不審を抱き、三浦に対し査察が入ったがどうするのかと照会したところ、三浦はまだ打つ手がある桜井さんには一切迷惑をかけない(昭和五九年九・二六付検面調書三九丁)国税局がきても自分の指示に従うようといわれていたためであり、国税局査察が行なわれた以降の行動は三浦の指示にもとづいたもので、被告人を非難することは、その行動の原因を理解していないものといわなければならない。要するに被告人の無知が招いたものである。

第一〇、被告人は課税庁によって本件取引によって課税対象となる所得は金一八九、五一一、八〇〇円と認定されている。そして、これに対する課税状況は左記のとおりである。

1 国税 所得税(本税) 一四五、九三二、八〇〇円

重加算税 四三、七七九、〇〇〇円

計 一八九、七一一、八〇〇円

2 地方税(東村山市、都民税)

計 二六、二四七、二七〇円

3 右1、2合計 二一五、九五九、〇七〇円

これに同年度の事業税が加算される。

右のうち重加算税四、三〇〇万円余は行政罰であるが、本件第一審判決では、罰金三、五〇〇万円を懲役一年八月に併科している。従って被告人が支払わなければならない経済的負担は総計二億五千万円余である。

これに対する被告人の財産は、差押にかかる居住用の不動産・預貯金などを合計しても約九千万円余である。

このように、所得税・罰金等は被告人の資力を上まわる金額であるため、被告人は弁剤計画を樹て本税については現在までのところ金四二、一四八、四三八円を納付し、本税重加算税については残額が一四七、五六三、三六二円である。本件は、偶ゝ巨額な金額の取引に従事した被告人が偶発的に犯行に至ったものであり、その犯行は三浦正久という詐欺犯によって被告人らが欺されたという被害者的側面もあり、再犯の可能性も少ない。

現判決のように一方において実刑判決によって被告人の身柄を拘留し、他方において所得税、罰金の納付を命じることは、働かなければ、これらの財源を確保できない被告人に不可能を強いるものであるとともに、被告人の更生の途を塞ぐものである。

最近、租税犯について、裁判所は実刑判決をもって臨む傾向が強いが、本件は、被告人が永年にわたって租税回避行為を継続してきたというような事犯ではないので今回に限り懲役刑の実刑判決を執行猶予付とされるよう判決を求める次第である。

控訴趣意書訂正補足申立

被告人 桜井恒雄

昭和六〇年九月六日

右弁護人 小川英長

東京高等裁判所 第一刑事部 御中

昭和六〇年三月五日付控訴趣意書について次のとおり訂正及び補足を申立てる。

一、一枚目ウラ八行目以下中野区丸山二丁目一九九五八番地七は、一九五八番七と訂正する(昭和五九年七月七日検供津島テル子調書添付資料一による)。

二枚目ウラ三行目充分承知させておりを充分承知してと訂正。

二枚目ウラ一一行目己善蔵は己喜蔵に訂正、以下三枚目表七行目己善蔵同三枚目ウラ二行目己善蔵、四枚目表六行目七行目、九行目己善蔵とある部分は己喜蔵と訂正する。

一〇枚目ウラ五行目弁剤計画は弁済計画と訂正

二、被告人の昭和五九年一一月二六日以降現在までの納税状況を述べると別紙納税状況一覧表のとおりである。

納税状況一覧表

<省略>

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